第5回『喫煙と労働時間』

喫煙と労働時間

第5回:2019年9月18日更新

 

著:川島孝一
(川島経営労務管理事務所所長、(有)アチーブコンサルティング代表取締役、
(有)人事・労務チーフコンサルタント、社会保険労務士)


健康経営を導入する際の具体的な施策として、「禁煙」を検討する会社が多いようです。
喫煙は、健康に悪影響を与えることは科学的に証明されています。禁煙を推奨していくというのは、健康経営を行っていくにあたって有効な手段です。
近年では、働き方改革を社内で議論していく中で、「喫煙者と非喫煙者の労働時間がフェアではない」といった話も出てきます。
今回は、喫煙と労働時間について考えていきます。

 

<喫煙をすることによる健康リスク>

喫煙はがん、脳卒中、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、歯周病など多くの病気と関係していることが科学的にわかっています。
喫煙をやめれば、発症リスクは低くなります。
さらに、喫煙を始める年齢が若いほど、これらのリスクを高めるだけでなく、総死亡率が高くなることもわかっています。
厚生労働省が作成をしている『生活習慣病予防のための健康情報サイト』に、喫煙をすることによって発症するリスクが高い具体的な病気が公表されています。

① 科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である病気:レベル1

  • がん:肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝、膵、膀胱、子宮頸部
  • 肺がん患者の生命予後悪化、がん患者の二次がん罹患、かぎたばこによる発がん
  • 循環器の病気:虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤、末梢動脈硬化症
  • 呼吸器の病気:慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸機能低下、結核による死亡
  • 糖尿病:2型糖尿病の発症
  • その他:歯周病、ニコチン依存症、妊婦の喫煙による乳幼児突然死症候群(SIDS)、早産、低出生体重・胎児発育遅延

② 科学的証拠は、因果関係を示唆しているが十分ではない病気:レベル2

  • がん:大腸がん、腎孟尿管・腎細胞がん、乳がん、前立腺がん死亡、急性骨髄性白血病、子宮体がんのリスク減少
  • がん患者全体の生命予後悪化、再発リスク増加、治療効果低下および治療関連毒性(治療による副作用がでる)
  • 循環器の病気:胸部大動脈瘤
  • 呼吸器の病気:気管支喘息の発症および増悪、結核の発症および再発、特発性肺線維症
  • その他:う蝕(虫歯)、口腔インプラント失敗、歯の喪失、閉経後女性の骨密度低下、大腿骨近位部骨折、関節リウマチ、認知症および日常生活動作、女性の生殖能力低下、妊婦の子宮外妊娠・常位胎盤早期剥離・前置胎盤、妊婦の子癇前症・妊娠高血圧症候群(PIH)のリスク減少

 

<働き方改革と喫煙について>

2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されています。大きな法改正の一つとして、残業時間の上限規制があります。
これまでも労働時間の延長については一定の基準が設けられていましたが、特別条項付きの労使協定(36協定)を締結している会社の場合、労働時間に法律の制約はありませんでした。
今回の法改正では過労死等の問題に歯止めをかけるため、残業時間の上限規制が作られました。
残業時間の上限は「月45時間・年360時間」になり、臨時的で特別な事情がなければこれを超えるとはできません。
また、臨時的な特別の事情があって労使合意により延長する場合でも、

  • 年720時間以内
  • 複数月平均80時間 以内(休日労働を含む)
  • 月100時間 未満(休日労働を含む)

を超えることはできません。

さらに、原則である月45時間を超えることができるのは「年間6か月」までとなります。
労働基準法は昭和22年に制定・施行されましたが、今回のように残業時間の上限を法律で規制することは初めてです。

この法律が施行されたことによって、企業は労働時間の削減をしなければならなくなりました。
労働時間の削減を検討する会議などで良く取り上げられるのは、労働時間中の喫煙です。

喫煙者は、仕事と仕事の合間で勤務中であっても一服する傾向があります。
そのため、非喫煙者に比べて喫煙者は実際の休憩時間が長くなってしまいます。
たとえば、1回の喫煙に10分かかるとすれば、勤務時間中に1日に5本吸った場合、50分の時間が消費されてしまいます。
これでは、非喫煙者からクレームが出るのは当然とも言えるでしょう。

喫煙で費やした時間を残業でリカバリーするような状態だと、いつまでたっても会社は労働時間の削減をすることはできません。
このような理由からも、勤務時間中の禁煙を行っていくことは、生産性の向上や労働時間の削減などの効果を期待することができます。

ただし、非喫煙者だけで禁煙を決めてしまうと喫煙者からは反発が出てきます。
そのため、喫煙者も含めて禁煙プロジェクトを進めていく必要があります。
ムダに消費されている時間のことを考えれば、多少のインセンティブをつけてでも実施を検討する価値があるかもしれません。

 

※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロンヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。


著者プロフィール(川島孝一氏)

川島経営労務管理事務所所長、(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサルタント、社会保険労務士。
早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事・管理業務に従事後、現職。人事制度、賃金制度、退職金制度をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを主に行い、労務リスクの低減や経営者の視点に立ったわかりやすく、論理的な手法に定評がある。
著書に「中小企業の退職金の見直し・設計・運用の実務」(セルバ出版)、「労務トラブル防止法の実務」(セルバ出版)、「給与計算の事務がしっかりできる本」(かんき出版)など。