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【セミナーレポート】実践に役立つ健康経営セミナー【6月23日開催】

2022年6月23日(木)、当社は総務・人事担当者に向けた「実践に役立つ健康経営セミナー」をオンラインで実施し、盛況のまま終了いたしました。当日は当初予定していた参加者数を大幅に上回る214名の担当者の方々にご参加いただき、また、数多くのご質問も頂き、各社の健康経営取り組みへの関心度の高さを感じるものとなりました。

本セミナーでは、山野美容芸術短期大学 教授であり、『経営戦略としての「健康経営」』、『ヘルスケア・イノベーション』などの多くの有名著書を持つ新井卓二先生にご登壇いただきました。新井先生からは健康経営優良法人認定をめざす法人様が今後どのように健康経営に取り組めばよいのか、健康経営度調査の変化点など、これからのトレンドについて最新情報について教示頂きました。また当社からは、オムロンヘルスケアの健康経営の取り組みに15年に渡って携わり続けた大家が登壇し、どう社員に健康についての意識を浸透させてきたか、その工夫についてお話いたしました。

本稿ではセミナーの概要について記載いたします。ご興味がある方は是非ご一読ください。

【第一部】最強戦略としての「健康経営」 健康経営のトレンドを読む

講師:新井卓二先生(Ph.D. MBA)
山野美容芸術短期大学 教授、オンライン新井研究室主宰
公益財団法人日本ヘルスケア協会 健康経営推進部会 副部会長
一般社団法人社会的健康戦略研究所 運営委員&特別研究員

健康経営とは、従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題としてとらえ、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法のことを指しています。健康経営の制度や方針は例年7月に実施される健康経営のワーキンググループ内で決定されています。その中で決まった顕彰制度が始まって以来、参加企業数を減らすことなく毎年順調に増加しており、最新の情報では大企業の約半数が参加しているようです。

※健康経営に関する政府の動向や制度の詳細は経産省のwebサイトにてご確認ください。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

昨今、経済産業省が健康経営実施企業に対して、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的な実施を求める傾向にあります。これは健康経営を実施したことによる社員の健康増進によって活力・基礎体力・生産性・人材定着率が向上し、ヘルスケア産業の創出などイノベーションの拡大、業績や企業価値の向上につながるといった効果があるという考えによるものです。こうした経産省の考えに対して、2022年5月に発刊した単著「最強戦略としての健康経営」でも提案している通り、従来のビジネス系の能力拡張を主としていた人材開発に加え、今後は生涯現役社会、定年延長を見越した健康開発が必要となり、それと同時に企業は病気でも継続して働ける環境を用意していかなくてはならないと考えています。健康な国民が増えることで国民のQOL向上やそれに伴う医療費削減といった効果も見込まれています。そのため、最近では企業内に限らず、家族・地域・株主も健康経営の対象として外部にも発信することで健康経営を社会全体につなげていこうとされています。

■健康経営の取り入れ方

健康経営による効果は確実なため、“とりあえず始めよう”という感覚では惜しいといえます。始める前に、現在の企業の状態を測り、毎年結果を測定・検証するPDCAを回しましょう。その際、経産省が公開している健康経営度調査票や健康経営管理会計ガイドラインなどを活用しましょう。

社内で取り組む際のポイントとしては、社員の健康状態に応じた対応だけでなく、ヘルスリテラシーに応じた介入方法を模索することも大切です。

例えば、運動やヨガのイベントを実施しても、本来参加して欲しいヘルスリテラシーが低く、ハイリスクな人は参加せず、健康状態が良好な人ばかりが参加することが多くなりがちです。イベントに参加して欲しい対象者が参加しているか、低い人が参加したくなる施策は何かを考えると面白いアプローチができる可能性があります。リスクにかかわらず社員全体に対して同じ健康管理を指導するポピュレーションアプローチという手段もありますが、企業内にマッサージルームを設置するだけで健康に興味がない人でも来てくれることがあります。こうしたことを考えるときの方法として、従業員個人や職場環境・システムに対して、任意と強制の2パターンで介入するという方向から考えてみましょう。

 

■効果測定方法について

アブセンティーイズムとプレゼンティーイズム・ワークエンゲージメントによる効果測定が?進められています。アブセンティーイズムは正社員の疾病による休職者数(1か月以上の長期欠勤者も含む)で評価します。一方のプレゼンティーイズムでは5つの評価方法を提示し、企業ごとに実施しやすい方法が用いられますが、「SPQ」及び「WHO-HPQ」、自社独自の方法や民間サーベイ会社による測定が多く行われているようです。また、ワークエンゲージメントについては慶應義塾大学の島津明人研究室のWebサイトを参考にしてみてください。これらの評価項目については自社で独自に決めても構いませんが、既存の情報も活用しつつ、ヘルスリテラシーを図っていってもらえればと思います。そして業務パフォーマンスの評価・分析においては健康管理投資会計ガイドライン健康経営度調査票を活用しましょう。

■健康経営に対する各企業の取り組みについて

経産省は健康経営による効果の公開先として株主を挙げており、丸井グループの共創経営レポートのような形で情報を開示する企業が増えています。最近では従業員の家族あてに配ることも増えているようです。経産省はこうしたグループ会社の取り組みを確認しており、特に健康経営資源が豊富なメインの会社が健康保険組合なども活用したグループ各社の支援によって、関係会社や下請け会社、孫会社にまで健康経営が普及していくことを望んでいます。

■健康経営銘柄について

※健康経営銘柄の詳細な説明は経産省のページをご確認ください。健康経営銘柄が制定されて8年経過しました。今年発表された健康経営銘柄では8年連続認定となったのは花王、SCSK、大和証券グループ本社で、初認定された企業が19社、4割ほどの銘柄が入れ替わる特殊な年となりました。これまでの選定のキーワードは体重や肥満者の削減、ウォーキング等の運動習慣、残業削減やワークライフバランス、産業医等の産業保健スタッフの活用が多く、コミュニケーション促進やヘルスリテラシー、組織の活性化等は少数ながらも特筆すべき取組と考えられているようです。銘柄の選出に影響するのは経営戦略としてどう効果が出てきたかという点で、経産省の健康経営を経営戦略として取り組んでほしいという事がよく反映されているという結果です。

■目指すべき健康経営と今後の動向

社員から見た際、「いつの間にか(健康経営の施策など)気にすることなく、身体的、精神的数値が改善し、個人としていきいきし、組織として活性化した状態になっていること」が望ましく、社会人生活を過ごす中で健康になっていくことが理想です。健康経営による効果は企業にとってのCSR活動や評価・リクルートにいい影響を与えるだけでなく、その施策を基にした自社内の商品サービスへの転用といった効果が生まれます。そして地域から見たときには医療費削減や、健康格差の解消、自転車通勤によるカーボンオフセットへつなげられる可能性があることから、最近では地方自治体が自分たちの担当地域にそうした好ましい人物が増えるよう、健康経営企業を増やそうと活動しているケースが増加しています。

健康経営はESG(環境・社会・企業統治)の中のhealth and safetyに該当し、ESG投資の対象先となります。これを株主に認識されれば、株主からの投資を受けられ、株価が上がる可能性もあります。また、SDGsの3(すべての人に健康と福祉を)と8(働きがいも経済成長も)に該当すると考えられます。

 

 

また、最近ではアメリカの証券取引所が人的資本を開示求めており、日本でも同様にその流れが進んでおり、5月13日に公開された人材版伊藤レポート2.0で健康経営についての記述が追記されました。つまり、健康経営は人的資本経営においても重要な一部を担っていると考えられます。現在、健康経営のISO化(国際標準規格)が進んでおり、さらには1号規格に続くシリーズ企画の構想が建てられています。今後、日本が健康経営のマネジメントシステムを売っていく時代になると予想されます。

Q.健康経営を本質的な取組ではなく、リクルート目的のポーズで実施しているかを見分ける方法は?

離職率を合わせてみると健康経営が効いているかを推測することができます。
離職率が高ければ健康状態に興味がないと推測できますので、離職率を確認してみてください。

【 第二部 】「健康経営優良法人2022(ホワイト500)」に6年連続認定 
オムロンヘルスケアの健康経営取り組み

オムロン ヘルスケア株式会社 経営統轄部 総務企画部 健康経営エキスパートアドバイザー
講師:大家明子

地球上の一人一人の健康で健やかな生活への貢献をミッションに掲げるオムロンヘルスケアは、社員一人一人の健康が経営の基盤であると考え、みんなが豊かで充実した生活を送れる環境を一体となって作り上げていくとして2017年7月に健康経営宣言を行っています。健康経営という言葉が生まれる前は多くが福利厚生による健康管理が主体でしたが、昨今はその分野が広がり、経営トップの思いを反映した健康経営方針を打ち立て、様々な試行錯誤を行ってきました。

当社は健康経営重点テーマとして、ハイリスクな人や健康不安のある人の重症化予防(血圧適正化、健康リスク者の減少、高ストレスの改善)と健康増進予防(血圧測定の習慣化、健康増進行動の実践、いきいき職場の実現)を挙げています。推進体制は、推進責任者を社長、運営の中核である健康経営推進グループが産業保健チームと連携を取り、定例会の実施と計画の策定、経営戦略会議での承認、実行を行っています。

■健康経営施策と取組み

当社は、オムロングループ全体の健康づくり応援指標Boost5以外に当社独自の健康経営施策として、2017年度よりオムロンゼロイベントチャレンジに取り組んでいます。

「社員一人ひとりが、どんなちいさなことでもいいから、健康のために、何かを始めること。何か行動を変えること。そして、オムロンヘルスケア社員全員で血圧の最適化を目指すこと」という社長メッセージのもと、家庭での血圧の測定、リスク層別化、行動変容の実行、血圧コントロールによる血圧の適正化といった活動を行うことで、社員の健康状態の改善に取り組んでいます。オムロンゼロチャレンジの経過と実施率、血圧適正化率の傾向は下図の通りです。

家庭血圧測定によって、健診血圧とのクロス解析が可能となり、定期健康診断では正常であっても、家での測定では高血圧気味であるという仮面高血圧が存在するということが分かっています。またこのコロナ禍において、BMI25以上の割合が増えてしまったため、現在、体改造チャレンジとして減量プログラムへのエントリを開始しました。

 

■オムロングループ共通の健康指標Boost5への取り組み

Boost5では、運動・睡眠・メンタルヘルス・食事・タバコの5項目を重点生活習慣化として設定しており、達成項目の増加を目指して取り組んでいます。社員が行動指標を達成できるよう、機会や環境を社員に提供し、社員は年1回、ストレスチェック回答時に達成率を確認しています。この5年間で当社内での達成率は改善傾向にあり、達成項目が多い人ほど健診の結果がよく、パフォーマンスが高いことが分かっています。達成者の推移と健康状態の改善、パフォーマンスの関係性は下図の通りです。5項目達成者には表彰と記念品を贈呈しています。

 

■オムロンヘルスケアが独自で行っている施策について

2020年までの4年間で企業理念に基づいたメッセージ発信をはじめ、各部門のアンバサダによる組織ごとの働きかけや、血圧測定などの環境づくり、健康的な食事の提供やウォーキングイベントの実施による運動機会の創出、セミナー等による始めるきっかけ作りなどを実施してきました。現在は自律的かつ主体的な参加を促すため、行動変容の習慣化に取り組んでいます。

例)血圧測定の日の設定、測定ステーションの設置、のぼりによる周知、ポスター掲示など

  • オムゼロウォークとアプリによる社員への働きかけ

SUMO&ウォーキングというゼロイベントアプリを作成し、血圧や体重、歩数を測定するごとにポイントを加算し、番付が上がる仕組みを持たせることで運動の継続、測定率の改善・維持を実現しています。このアプリでは実名表記にし、個人・部門・任意のチームでのランキングが表示、社員間の話のきっかけや歩くモチベーションになっていますが、やり取りをより活発にするため、特定のお題目の写真を投稿するような企画を実施するなどの工夫を行っています。

 

  • 禁煙への取り組み

2008年から禁煙推進に取り組んでおり、2017年にはkenko企業会禁煙分科会に参加しました。禁煙に対する役員の関心が非常に高かったことから、敷地内禁煙、就業時間内禁煙などの施策が決定され、吸えない環境を早々に実現し、禁煙希望者へのサポートや費用補助を合わせて実施しています。その結果、2017年には17.9%だったものが2021年には8.9%にまで喫煙率が減少しています。

 

 

■さいごに

健康経営の実現には、全社で取り組み、やって当たり前という風土を作り上げることが重要です。それには経営層の理解や参画はもちろん、リーダーの存在、保健師等の専門職からのサポートも大切です。また、実施した施策に対して、必ずPDCAサイクルを回し、次年度の計画に反映しましょう。全員参加が当たり前の風土に加え、やってみると楽しいものだと思ってもらうことで、それまで無関心だった人が関心を持つタイミングが必ずあります。当社では入社時や定期的に保健師との個別面談を実施、専門職とのパイプをつくっていくことも肝要と考えています。

■オムロンヘルスケアの健康経営に関するサービス紹介

当社がこれまで取り組んできた社内実績をもとに事業化し、お客様へのサービスとして提供しています。 

健保様が抱える実施率向上とリピーター削減という課題の解決策として、書籍「朝晩ダイエット たった10秒! のってやせる!」の著者である独立行政法人国立病院機構京都医療センター/臨床研究センター 予防医学研究室長 坂根直樹先生による監修を受けた朝晩ダイエット機能を提供しています。朝晩ダイエットとは、朝と晩の2度、体重を測定することで、その体重差からわかる代謝や消化という燃やす力を効果的に活用して取り組むダイエット手法です。オムロンの体重計で測った数値を健保アプリに自動で取り込み、目標体重を自動で算出、数値を確認できるため、モチベーションを維持しながら継続することが可能です。これまでの効果検証で、朝晩ダイエットで開始1ヶ月▲1kgを目指すことが1年後のリピーター削減につながることが分かってきました。この方々は半年後、約5㎏の減量につながり、1年後のリピーター減少率が約8割という結果が出ています。

健康経営の推進には従業員が能動的かつ継続的に参加することが欠かせませんが、コロナ禍によってリモートが中心となったことで、社内での健康イベント等による働きかけが難しくなった昨今、健康経営の取り組みにはデジタル手段を取り入れていくことが有効と考えられます。そこで当社でも効果があったオンライン対戦プログラムSUMO・ウォーキング活用による運動の習慣化と、実名で対戦・ランキングに参加することでコミュニケーション機会の創出につなげることができ、健康経営の目的の一つであるヘルスリテラシー向上に役立てることが可能です。

アーカイブ動画のダウンロードについて

以下のページより当社大塚による講義の動画をダウンロードできます。
興味がある方は是非ご利用ください。
https://datahealthcare.omron.co.jp/doc2019-001