「健康経営を学ぶ」 第5回「健康投資ワーキンググループ( 2023年度 健康経営度調査の回答状況等)

127日に健康経営の推進を担当している経済産業省の、健康・医療新産業協議会内の第10回健康投資ワーキンググループが開催されましたので内容を紹介します。

 今回の議題の主は2023年度の健康経営度調査の結果の速報と,10年間の顕彰制度の総括等となります。

 まず今年も申請数は順調に増加しており,大規模法人部門で+354件の3,523件(前年度比約11%増),内上場企業は+76件で1,203件(前年度比約7%増)となりました。また、中小規模法人部門は+2,915社の17,316社(前年度比約20%増)となりました。

表1顕彰制度の健康経営度調査票への回答数(著者作成)(参考:経済産業省、健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG 事務局説明資料1、令和512月)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf

年度上場企業大規模法人中小規模法人
2014493  
2015573  
2016608726397
20177181,239816
20188691,8002,899
20199642,3286,095
20209702,5239,403
20211,0582,86912,849
20221,1283,16914,401
20231,2033,52317,316

上場企業においては,随分と浸透しており,健康経営に取り組むまたは、別の取り組みを推進する等ハッキリと分けられてきた印象を持っています。一方、中小企業は全国規模でみればまだ浸透しておらず、ACTION健康経営(https://kenko-keiei.jp/)で紹介されている通り、昨年は「健康経営®の入門編!ACTION!セミナー」と題し、札幌、長崎、岐阜で、開催。本年度も仙台、福岡、金沢、広島、沖縄等の地方で開催されており、徐々に地方自治体等を通して健康経営の普及が行われているのが現状です。筆者も9月以降に茨城県、岐阜県(3回)、年明けには沖縄県、山口県、東京都労働局等の地方自治体から、管内の企業向けに健康経営の普及講演の依頼を頂戴しており、従来の霞が関の経済産業省の発信から、徐々に地方自治体が本腰を入れ管内向けに普及に努めているように感じています。

 その理由として、以下2点が考えられます。1 点目として医療費の削減を目標とし,その手法として義務化されている健康診断の受診率向上に取り組んでいることがあげられます。地方自治体では,従来から保健所等を通して働き世代への介入も試みていますが,なかなかリーチできておらず健診受診率は伸び悩んでいるのが現状です。健康経営では,定期健康診断受診率が 100%(必須項目)としているため,健康経営企業を管轄内に増やすことにより,健康診断受診率の向上や,期待される効果の一つのヘルスリテラシーの向上による医療費の削減を期待して取り組み支援を始めています。

 2 点目として、「地域活性化や過疎化を防ぐため人口流出を抑えること」また、「人口増加を目標とし,地方創生等で魅力ある地域作りやブランド化等に取り組んでいること」です。従来,地方自治体では,健康で長く住みやすい街等を標榜する健康都市宣言等に取り組んできていますが,傾向を反転するまでの効果をあげられているとはいえません。そこで、地方自治体では,外国人観光客だけでなく,健康経営をきっかけやフックに人口を流入またはワーケーション等で関係人口(移住した定住人口でも観光に来た交流人口でもない地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと)を増加させようとする地方創生を行い始めています。

参考文献)新井卓二:健康経営と地方創生 -山形県上山市と宮崎県日向市からの一考察-,山野研究紀要2022 30(1) pp19-24

 次に,2014年度の第1回健康経営銘柄から10年が経過し,顕彰制度の総括について8項目が紹介されています。

 参考:経済産業省、健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG 事務局説明資料1、令和512月 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf pp16-25

 注目すべきは2点あります.一つ目は,「②健康経営度調査票改訂の変遷」です。施策の中で反応が無いと往々にして取りやめてしまうケースがある中で,10年間しっかりと取り組んできたからこそ振り返れる内容になっています。また現在の経済産業省ご担当者が10年前の制度設計に携わり,再度戻られ現在活躍されているのもよかったのではないでしょうか。そして日本における健康経営の骨子&取り組み事例は,この調査票に統一されていると言っても過言ではありません。これは様々なサーベイや取り組みがある他のwell-being(経営)等と違い,分かりやすくなっていることが日本における普及の一因になっているかと思います。具体的には下記です。

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⚫ 健康経営度調査票は、より効果的な健康経営に繋げるべく、毎年改訂を続けている。
⚫ 評価に使用する4つの側面(「経営理念・方針」「組織・体制」「制度・施策実行」「評価・改善」)に関する設問構成は初年度に「制度・施策実行」に関する設問数が7割であったが、2023年度では5割に減少。他方で、「経営理念・方針」、「評価・改善」の割合は倍増している。

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過去回でも紹介した通り,初期の調査票では産業保健体制の徹底や充実を回答させていましたが,現在は女性の健康や生産性の向上さらに戦略や業績への紐づけ等へ大きく変化してきました。これらによって企業は取り組みを進化または新たな測定等で適応させる必要がありますが,一部の企業ではできていませんでした。それを示すように制度開始から健康経営銘柄に選ばれているのはSCSKのみとなっており,また毎年4割弱の企業が新たに健康経営銘柄に選ばれていることも,その証左ではないでしょうか。さらに筆者は,初回の健康経営銘柄の発表後から,学生と一緒に健康経営企業に訪問してきました。

参考文献:新井卓二:大学生の健康経営企業訪問プロジェクトの概要と研究報告 2016 年~2019 年の研究 Review,山野研究紀要2020 282021 29 pp51-55

毎年改訂で新規項目が追加されると,企業側では産業保健スタッフだけでは調査票に回答できず,人事部や総務部等多くの部署を巻き込む必要がありますが,組織変更等を伴う場合もあり,これがなかなかできておらず苦戦している企業がありました。結果,訪問先では銘柄企業に選ばれていたのにも関わらず翌年の健康経営度調査は目指さないと話される企業もありました。

他筆者は前述の通り地方自治体にお伺いしているのですが,現在全国の都道府県レベルでは独自の顕彰または表彰制度があります。こちらは制度設計の最初に経済産業省の健康経営度調査を参考に都道府県の独自の項目を追加し決まった後は,ほとんど改定が行われていないようです.最近では経済産業省の健康経営度調査と乖離が発生しているように見受けられます。地方自治体の顕彰制度も経済産業省のワーキンググループではないにせよ,有識者会議等を持たれているケースが多いようですので,ぜひ都道府県の独自の顕彰・表彰制度を目指して欲しいと願っています。

もうひとつは「⑧健康経営度調査回答法人内訳及び離脱率の推移」です.具体的には下記のとおりです。

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⚫ 健康経営度調査への新規回答法人数は直近3年間で約17%、継続回答は約80%で推移。前年度は回答していたが当該年度は未回答になった法人数(離脱率)は年々減少。
⚫ 初年度から昨年度までの9年連続回答は176法人で約4割であるが、継続回答率は年々高まっている(新規上場、合併等考慮せず)。

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特に調査票への回答離脱率が10%となっているのが,多くの企業にとって,ここ10年で働き方やコロナ等の社会・環境変化,Well-beingや人的資本経営等流行の経営戦略の変化を経ても,健康経営だけは推進していることが伺えます。つまり企業にとって重要な経営戦略等の施策になっていることが推察されます。また上場企業の取り組み企業数も増えており,これらは株主総会等も経ておりますので,逆説的になりますが,少なくとも株主からも指摘される戦略,また株価が下がる(企業価値が低下)取り組みとはなっていないようです。元気で生き生きとした社員が増えることは,株主の多くにとっても,感覚的に企業価値向上に好影響を与えていると推察されます。

5回のコラムシリーズの最後に健康経営の広がりを紹介します。一つの例として沖縄県では,陸上自衛隊第15旅団が健康経営宣言(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/files/okinawa-281222kenkousengen/file/20230331sengenjigyousyo.pd)をしています。また本年度から国家公務員の人事管理等を行っている人事院から「国家公務員の健康管理検討にあたっての民間実態調査」への有識者として依頼があり参加していますが,そこでは労働基準法の一部適用外である国家公務員の健康経営の可能性も探られています。そしてこれらは今後地方公務員へ,さらに警察や消防,教員等まで広がっていくことでしょう。このように,健康経営は従来企業または医療機関等が対象でしたが,日本におけるすべての組織において適用できるものと,概念が拡張されていっています。

いかがでしたでしょうか?一年間お付き合いいただきありがとうございました。またどこかのセミナーや書籍等でお会いできることを楽しみにしています。

※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロン ヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。
※ 健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。