第10回デジタル変革の3分類

第10回:2020年4月07日更新

 

 

著:鈴木良介(野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント)


デジタル変革というのは不思議な言葉だ。

情報通信技術を使って何かをしたい、という思いは伝わってくるがそれ以上の意味がない。
2010年以降、ビッグデータ、IoT、人工知能とさまざまな手法が出てきた。
そのような手法を用いて「何か」をやらなければならないけれども、その方針が定まっていない企業において「何か」を表す容器としてデジタル変革という言葉が使われているのだろう。
そのため、デジタル変革という言葉のもとで何を議論したいのかは人によってバラバラで、議論がまとまらないことが多い。

デジタル変革に限らず「変革」という言葉はよく使われるけれども、本当に変革したい人は少なく、多くの人は仕事のしかたを変えたくない。
デジタル変革という言葉の使われ方にもそれがにじみ出ており、さまざまな変革の度合いを意味する施策が含まれている。
第一に、業務を大きく変えずに改善・コストカットすること。
第二に業務自体が変わること。
すなわちデジタル活用によって課題解決の方法が変わること。
第三は解決するべき課題が変わること。
新しい課題を解決するということは、デジタルを活用して新規事業を起こしている、といえる。
これら3つの取組みについて、それぞれの事例を見てみよう。

第一分類の「業務を大きく変えずに改善・コストカット」は人間が行っていた業務をソフトウェアに置き換える取り組みだ。
たとえば、日立システムズが提供する「メーター自動読み取りサービス」においては、大規模工場等においてメーターの前にカメラを設置。撮影されたメーター画像は、通信を介して収集され、その後ソフトウェアによって解析され電子データに変換される[*1]。
これは、人間の目視業務をセンシング・通信・ソフトウェア解析によって代替している。
既存設備の改修を行なうことなく業務効率を向上させているという点でとても有用なサービスであるが、業務プロセスが変わっているわけではない。

第二分類の「デジタル活用によって課題解決の方法が変わる」事例として、米ウォルマートのエデンが挙げられる。
エデンは生鮮食品の品質を管理するためのツールだ[*2]。
エデンは輸送中の温度データや、物流拠点を通る際の外観画像データなどを収集する。
そして、それらのデータから「店頭での販売が可能な日数はどのくらいか」という情報を得る。
輸送途中でつど行われる評価の結果、販売可能日数が予想外に短ければ、配送先を近隣の店舗に変更する。
これによって、店頭で販売する日数を最長化し、結果として廃棄ロスを最小化する。

エデンの事例は単純な既存業務の置き換えではない。
なぜならば、これまで配送拠点ごとに人間が細かく目視を行い、それによって配送先を調整していたわけではないからだ。
エデンでは、極めて安いソフトウェアで認知・判断機能を実現できるようになった結果、人間のスタッフでは実現不可能なくらい「じゃぶじゃぶ」と使っている。
単純な代替ではなくじゃぶじゃぶ使えるようになった結果、新しい業務プロセスが実現されている。

第三分類の「新しい課題の解決」の事例として、オーストリアのハグレイトナーを見てみよう。
同社は、ペーパータオルなどのトイレ用品を製造販売する企業だ。
「トイレ・ビッグデータ」の活用を進める事業を進めており、トイレ用品の販売に留まらぬ清潔プロバダになる、としている[*3]。

具体的には、オフィスビル、商業施設などのトイレにおいて、手洗い用の石鹸や、タオルディスペンサにセンサを設置。
それらのセンサを介して、どの程度のトイレ利用状況にあるのか、消耗品の残量はどの程度のあるのかといったデータを収集している。
これによって、清掃員の派遣タイミングや、消耗品の補充を最適化するなど、効率的なトイレ清掃を実現する。
また、施設管理者に対して利用状況にもとづいた有料トイレの提案を行うなど、トイレ管理に関する新たな原資獲得の支援も行っている。
これによってトイレ管理の最適化を行い、差別化が難しい本領域において、コスト削減や、大規模スタジアムの案件受注などを実現している。
これは商売の土俵こそ変わっていないものの、用品販売とはまったく異なる事業に乗り出している。
これはデジタルを活用した新規事業と言える。

分類ごとに優劣があるわけではないが、産業が成熟しきっている中で改善だけに取り組んで延命しようとしても意味はない。また、
社内で本業部門を巻き込まずに「デジタル変革チーム」だけが、業務プロセス変革を訴えても成果は出ない。
それぞれの企業に与えられた時間的な猶予の中で、どこに手を付けるかを見定める必要があるだろう。

[*1] 「メーター自動読み取りサービス」、日立システムズ、https://www.hitachi-systems.com/ind/cydeen/item/meterread/index.html(2020年3 月閲覧)
[*2] 「ウォルマートが画像解析技術で生鮮食品の鮮度測定システムを開発」、激流(2018年6月)
[*3] HAGLEITNER senseMANAGEMENT資料、https://cdn.hagleitner.com/fileadmin/user_upload/senseMANAGEMENT_allgmn_GER_EZS.pdf(2020年3月閲覧)

 

 

※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロンヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。


著者プロフィール(鈴木良介氏)

野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント。2004年、株式会社野村総合研究所入社。近年では、ビッグデータ・IoT・人工知能などのテクノロジが事業・社会にもたらす影響の検討および新規事業立ち上げ支援を行う。科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CRESTビッグデータ応用領域領域アドバイザー。著書に『データ活用仮説量産フレームワークDIVA』(日経BP、2015年)

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