第9回1,800万匹の愛猫・愛犬を支える「ペットテック」

第9回:2020年3月15日更新

 

 

著:鈴木良介
(野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント)


1.かわいい「うちの子」

クールだったり、強面であってもペットの話になった途端に相好を崩す人は多い。彼らの様子からペットが家族の一員であることがよく分かる。日本全国で飼われているペットの数は2017年時点で1,845万匹[*1]。これは、2017年10月時点における国内の0歳から18歳までの約2,000万人[*2]に匹敵する。米国においても総世帯数1億1700万世帯[*3]のうち、犬を飼っている世帯は約6,000万世帯、猫を飼っている世帯は4,700万世帯、飼われている犬猫の総数は1億8000万匹に及ぶ[*4]。

家族同様に可愛く、一方でプライバシはさほど気にしなくて良いためか、SNS上にはペットに関するコンテンツが多くある。ペディグリーチャムでおなじみのマース社は、販売促進キャンペーンとしてスマホ用アクセサリや、写真・動画撮影アプリを提供している。スマホのほどよい場所に犬が大好きなスナックを模したアクセサリをつけることによって、犬がカメラ目線でスマホを見るようになり、カメラ目線の良い写真が撮れる。また、アプリはサングラスや帽子などでのデコレーションを、人間さながらに行えるようにしている。当然、人間向けとは異なる仕組みが必要であるため、グーグルやスタンフォード大学の力を借りて開発したという[*5]。グーグルは犬に優しい社風であることがよく知られている[*6]。優秀なエンジニアが喜んで協力したことだろう。

2.物言わぬペットの状況把握

ペットにまつわる様々な課題の解決のためにも、テクノロジ活用は進んでいる。たとえば、ペットにまつわる課題として「物を言えぬこと」がよく挙げられる。まるで人間とコミュニケーションしているかのように喜怒哀楽は伝わるが、ていねいに体調不調の様子を説明することはできない。

トレッタは猫用のネットワーク接続トイレだ[*7]。これは、どのような問題意識のもとに開発されたのだろうか。同社によると飼い猫の多くが悩まされるのは腎臓系の病気だ。そのため、異変を察知するためには尿の様子を観察することが効果的という。トレッタは尿の頻度や量を自動的に測定し、猫の健康状態への理解を深める。

このような仕組みを用いる上でひとつ難点があった。猫は多頭飼いしている世帯が多く、その場合、尿の量も頻度も複数の猫の合計になってしまうのである。これでは、健康管理上の有効な情報とはならない。その課題を解決するべく、いまではAIを用いて猫の顔認証を行っている。人間の顔認証はコンサートの入場や決済などさまざまな領域で使われようになってきたが、猫の顔認証も始まっているのである。これによって、トイレに来た猫を自動的に特定。それぞれの猫に関する尿量・頻度を分計できるようになった。

「ペットの顔認証」の話を愛犬家に伝えると、犬ならばドッグランなどでの活用も考えられるという。ドッグランで遊ばせるためには、所定の予防接種が済んでいることを証明しなければならない。そのような情報を顔と結びつけることもできるのではないか、というアイディアだ。これもまた、自身が物を言うことができない中での一つの施策となりうるだろう。

ペットの個体識別としては、鼻紋写真の活用も進んでいる[*8]。鼻紋とはその字の通り鼻の模様を意味する。そして、鼻紋は人間の指紋と同様に経年変化がない。アナログながらも実用化されている業界としては、畜産業界における和牛の個別特定がある。韓国ではサムスン火災などがペット保険の加入者向け機能として鼻紋の活用を計画している[*9]。

3.ペットサービスの高度化

ペットとの日々の暮らしをつつがなく過ごすためには、意外と労が多い。たとえば、ペットフードや猫のトイレ砂などは日常的に消耗するものであるし、重くてかさばるため買い物の手間がかかる。そのため、ペット用品の専門店もペットの誕生日にバースデーカードを送るなどしのぎを削っている[*10]。

米国のファーマーズドッグはペットフードの宅配サービスを提供する[*11]。工場で生産されたドライフードや缶詰ではなく、新鮮な肉や野菜でつくられた料理を冷凍で届ける。人間用と同等のキッチンで調理されており、費用は週当たり16から90ドル。定型的なメニューではなく、犬の性別、体重、血糖、体型、運動量、食物アレルギーの有無、食事の好みに応じてメニューは決定される。­

人間だけを見ると「少子高齢化」かもしれないが、ペットも含めて考えれば家計支出の範囲は広がる。テクノロジの活用についても人間向けに成熟したものをペット向けに転用するだけでなく、ペットを例に培われるノウハウも出てくるかもしれないファーマーズドッグのケースなどは、「人間並みの調理」ということ自体が訴求点になっている。人間向けの調理というレッドオーシャンでコスト競争にさらされるよりも、富裕なペット向けにサービスを提供したほうが良い、という事業者もでてくるのではないだろうか。

[*1] 一般社団法人ペットフード協会調べ(2017年)
[*2] 総務省統計局人口推計
[*3] 「世界の統計2018」、総務省統計局(2018年)
[*4] 「ペット産業に続出するテクノロジー新興企業」、通商弘報(2017年11月)
[*5] “SelfieStix”, https://www.colensobbdo.co.nz/portfolio/work-pedigree-selfiestix/(2020年2月閲覧)
[*6] 『ワーク・ルールズ!』、ラズロ・ボック、東洋経済新報社(2015年7月)
[*7] トレッタウェブサイト、https://toletta.jp/lp/concept/(2020年3月閲覧)
[*8] 「スマホで撮影した鼻紋写真で犬の個体識別の実験」、マイナビニュース(2018年4月)
[*9] 「ペット保険戦争が熱い。今度はダイレクト販売」、毎日経済新聞(2019年1月)
[*10] 「アメリカで急拡大するペット市場が有望なワケ」、加藤千明、東洋経済オンライン(2019年11月)
[*11] 「本格化する米国の「ワンツーワン」」、平山幸江、販売革新(2019年10月)

 

※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロンヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。


著者プロフィール(鈴木良介氏)

野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント。2004年、株式会社野村総合研究所入社。近年では、ビッグデータ・IoT・人工知能などのテクノロジが事業・社会にもたらす影響の検討および新規事業立ち上げ支援を行う。科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CRESTビッグデータ応用領域領域アドバイザー。著書に『データ活用仮説量産フレームワークDIVA』(日経BP、2015年)

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