第1回:2019年5月16日更新
著:川島孝一氏
(川島経営労務管理事務所所長、(有)アチーブコンサルティング代表取締役、
(有)人事・労務チーフコンサルタント、社会保険労務士)
今回から、健康経営に関するコラムを執筆することになりました社会保険労務士の川島です。第1回目は、健康経営と健康投資の考え方について紹介をしていきたいと思います。
<健康経営とは>
健康経営の考え方は、1980年代にアメリカで生まれました。それから、数十年が経過し、日本でも健康経営という言葉が聞かれるようになってきました。
健康経営の定義は、2017年3月に経済産業省ヘルスケア産業課が発行した『健康経営の推進について』という資料にこのように記載されています。
健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資(健康投資)であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。
この定義に記載があるとおり、健康経営とは「将来的に」収益性を高める投資という考えを持ちます。したがって、「健康経営を行えばらすぐに収益が向上する」という性質ではありません。
言いかえると、結果が出なかったとしても、我慢強く継続していくことが重要になるということです。
従業員の健康を保持・増進することが大切ということは、説明を受けなくてもなんとなく大切なことだと感じると思います。会社が健康経営を行っていくことの必要性については、いくつかの調査が行われています。
1つ目の調査は、世界中に展開をしているジョンソンアンドジョンソンが行った調査です。この調査は、ジョンソンアンドジョンソングループ250社、約11万4000人に健康教育プログラムを提供し、投資に対するリターンを試算するというものです。その結果、「健康経営に対する投資1ドルに対して3ドル分の投資リターンがある」とされました。
この調査とは反対に、メンタルヘルスの不調が企業業績に与える影響も検証されています。以下の図表を見ていただければわかるように、「メンタルヘルス休職者の比率が上昇した企業は、それ以外の企業と比べて、売上高利益率の落ち込みが大きい」ことがわかります。
また、近年では、従業員がメンタルヘルスの不調に陥った原因が、長時間労働によるものだった場合、会社は損害賠償の請求を受ける可能性も出てきます。メンタルヘルスの不調による休職者が多い場合は産業医等の専門家に相談の上、早急に対応をしていく必要があります。
これらの調査の結果でもわかるように従業員の健康は、会社の利益に直結するものです。これまでは、「従業員の健康は、従業員自身で保持・増進をする」と考えられてきました。そのため、会社は法律で定められている健康診断などは行ってきましたが、それ以上に踏み込んだ取り組みを行うことはあまり見られませんでした。
しかし、2つの調査を踏まえて経営戦略を考えたときに、従業員の健康という視点を欠いてしまうのは会社にとってデメリットになります。
<健康投資とは>
健康投資とは、健康経営の考え方に基づいた具体的な取り組みのことをいいます。会社によって、取組内容はさまざまです。
「終業後にジョギングを従業員が主体的に行う」「禁煙セミナーを実施して喫煙率を下げる」といった取り組みを行っている企業もあります。具体的な事例については、経済産業省と東京商工会議所が合同で発行をしている『健康経営ハンドブック』に記載がありますので、興味がある方はぜひご覧になってください。
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健康経営を行っていくことで、会社に次のようなメリットが期待できます。
①従業員の活力向上や生産性向上等の組織の活性化
②業績向上や組織としての価値向上へつながる など
繰り返しになりますが、健康経営で成果を上げるには時間がかかるという認識を持つことが必要です。少しの期間だけアクションを起こしただけでは、はっきりと効果を実感することが難しいでしょう。
長期的な視点で、自社にマッチした取り組みを考えていく必要があります。
※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロンヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。
著者プロフィール(川島孝一氏)
川島経営労務管理事務所所長、(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサルタント、社会保険労務士。
早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事・管理業務に従事後、現職。人事制度、賃金制度、退職金制度をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを主に行い、労務リスクの低減や経営者の視点に立ったわかりやすく、論理的な手法に定評がある。
著書に「中小企業の退職金の見直し・設計・運用の実務」(セルバ出版)、「労務トラブル防止法の実務」(セルバ出版)、「給与計算の事務がしっかりできる本」(かんき出版)など。