第2回『じわじわと人工知能に置き換わる』

じわじわと人工知能に置き換わる

第2回:2019年5月7日更新

 

 

著:鈴木良介
(野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント)


  人工知能への関心が高まっているが、相性の良い領域の一つが映像解析だ。これまで人間が行ってきた「映像の理解」をソフトウェアに代替させられれば、効率化できる領域は広い。話題の自動運転や、無人店舗などを実現する上でも映像解析の高度化は不可欠であり、応用領域の一つだ。

  映像解析の研究・開発を牽引するのは、グーグルやアマゾン、マイクロソフトなどの大手ITベンダであるが、彼らは汎用的な技術を隠すのではなく誰でも安価に利用できるよう、サービスとして提供している。また、彼らが提供する汎用技術を特定領域に特化して使いやすくする企業も登場しているため、ユーザ企業としてみれば高度なテクノロジをお手頃価格で利用できる良い時代がやってきていると言える。

  一例を見てみよう。監視カメラ映像の解析に特化したサービスを提供しているカミオ(camio)だ[1]。通常、監視カメラ映像は何か問題が生じたときに事後の確認として用いることしかできない。もしも、リアルタイムで監視をしたいのであれば、監視員を貼り付けなければならずコストが高くつく。

  カミオは「監視員の関心を理解した上で、該当する状況が生じた場合には、そのことを自動的に通知」というサービスを提供する。サービス利用開始後、カミオが監視カメラ映像の中から抽出した特徴的なシーンのうち、関心に沿うものをチェックするだけで「その監視員が気になる状況」を理解してくれる。それ以外にも「金曜日にやってきたフェデックスのトラック」といった形でキーワードを入れると、該当するシーンだけを抽出してくれる。世の中には様々な映像解析のニーズが存在しているが、なかでも膨大に発生し、その処理に困る人が多い監視カメラ映像の解析に特化したサービスを提供するものだ。

  サービス自体も面白いが、同社が定める課金の方針がおもしろい[2]。カミオはサービスのレベルを4段階に分けている。4段階とはどのようなものか。同社が例示するそれぞれの提供機能と、そこから透けて見える意図を推察する。

  まずレベル1として提供されるのは、無制限のストレージ容量や、映像記録に対する改ざん防止機能だ。監視カメラの映像はデータサイズが大きく管理が大変でしょう。また、何かあったときに肝心の時間帯の映像が欠落していたら困りますよね、ですから我々が改ざん等されぬよう安全にデータをお預かりしましょう、という意図が見える。

  レベル2として提供される代表的な機能は人と車の検知機能だ。監視カメラで撮影された映像のうち多くの管理者が気にするのは、不審者や不審車両だ。人や車が映っているシーンだけをかいつまんでみたい、という管理者に対してこの機能はキラーアプリになるだろう。

  レベル3として、提供されるのは、発展的な画像認識・ラベリング・文字認識機能の提供だ。レベル2では「車が映っている」ということだけが判断のポイントであったが、レベル3では車種の特定も行う。さらに文字認識機能によって自動車のナンバープレートを読み取る。これにより、宅配便のトラックが来たのか、重要顧客が高級セダンでやってきたのかがすぐにわかる。ナンバー読み取り機能があれば重要顧客への対応を粗略に行うこともないだろう。

  さらにレベル4は顧客ごとにカスタマイズした機械学習モデルの提供を行うとしている。レベル3までの機能を使って物足りないと感じる顧客に対して、その会社に最適な認知・判断ソフトウェアの提供を行うものだ。

  レベル2からレベル4にあがるにつれて、気が利く度合い、賢さの度合いが上がっていくことが分かる。賢さを体感してもらうためには、映像データを見せてもらえなければどうしようもない。いきなり高額の見積もりを出しても門前払いされかねない。そのような中で、安くお預かりをし、精度高く人と車の検知をできることを示し、「これもできればいいのになあ」と段階的に優良顧客に育て上げている。

  カミオは監視カメラ映像の解析に特化した企業であるが、同社が示すサービスレベルは人工知能を活用した機能提供を目指す企業には共通する。まずは労働力削減につながる単純作業を人工知能で代替することを提示し、その上でじわりじわりと気が利く機能を提案して行く。このようなサービスが今後増えていくと考えられる。

[1] Camioウェブサイト、https://www.camio.com/(2019年3月閲覧)

[2] “Pricing that’s best for you”, Camioウェブサイト、https://www.camio.com/price/(2019年3月閲覧)

 

※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロンヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。


著者プロフィール(鈴木良介氏)

野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント。2004年、株式会社野村総合研究所入社。近年では、ビッグデータ・IoT・人工知能などのテクノロジが事業・社会にもたらす影響の検討および新規事業立ち上げ支援を行う。科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CRESTビッグデータ応用領域領域アドバイザー。著書に『データ活用仮説量産フレームワークDIVA』(日経BP、2015年)