第3回:2019年6月3日更新
著:鈴木良介氏
(野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント)
IoT(Internet of Things)への注目が高まっている。
通信コストが安くなる中で自社の製品がネットワークに接続されれば、さまざまな商機が得られるのではないか、という考え方だ。確かに「製品は作っているけれども、それがお客様によってどのように使われているのかはわからない」という多くの事業者にとってみれば、使われ方が把握できるようになるというのは興味深い話だろう。
しかし、興味深さだけで多額の投資をすることはできない。そこでよく出てくる一言が、「つないで、で、どうすんの?」である。見える化して面白がっているだけでは金にならない。経済的効用を得るためにはどうしたら良いのか。
「つないで、で、どうすんの?」に対する答えの一つは「複数のモノを群として管理できるようになる」だ。これまで一つ一つ独立であった「モノ」が、ネットワーク接続されることによって群として管理できるようになる。そうすると一つ一つを個別に管理するよりもさらに効率的な管理を行うことが可能になる。
いくつかの事例を見てみよう。
ビッグベリーというゴミ箱がある。これは、米国のビッグベリー社により開発されたハイテクゴミ箱だ[1]。敷地内に設置された数十のビッグベリーはすべて携帯電話ネットワークに接続されており、時々刻々とデータを送る。
送られるデータはゴミ箱によって生成されるリアルタイムの「満空データ」だ。そのデータに基づいて「最適なゴミ回収頻度とルート情報」が得られる。この情報をもとに、「最適なゴミ回収」という振る舞いの変化が得られ、最終的に美観を維持しつつも無駄な回収が抑えられることで「人件費の抑制」という経済的効用が得られる。これは複数のゴミ箱を群として管理することによって得られる効用だ。
ウーバーも群として管理をしている。管理の対象は「運転手付き自動車」だ。自動車自体がネットワークに接続されているわけではないが、運転手のスマホを介して接続されている。
これにより、ある地域における複数の「運転手付き自動車」が仮想的に一つの資源であるかのようにまとめ上げられ、使いたいときに使いたい分だけ利用することが可能になる。これも群としての管理の一例である。
もう一例、まだつながっていないが同じ発想を生かしている事例として、ラクスルを紹介する[2]。ラクスルは「全国のお客さまから印刷の注文を集め、それを最適な印刷会社に発注し、印刷機の非稼働時間を使って印刷をする」仲介を行っている。
これは、本来企業の壁で仕切られている「印刷機器」を仮想的に一つの資源であるとみなし、最適な作業配分を行うことを可能としたものだ。現在は印刷機器がネットワーク接続されているわけではなく、それぞれの保有者に業務を打診するしくみをとっているが、実質的に印刷機器を群として管理している。
ビッグベリーはゴミ箱とゴミ回収スタッフを、ウーバーは運転手付き自動車を、ラクスルは印刷機器を、それぞれまとめあげて最適化を進めている。「個」の監視や「個」の制御が効用を生み出すにとどまらず、機器や設備を「群」として最適化することで大きな効用が期待できる。本稿で紹介した事例はいずれもその萌芽事例と位置づけられる。
これはいうならば、資源の仮想化だ。「仮想化」は、IT業界の人にはおなじみの概念であり、「ハードウエアなどを、その物理的構成によらず、統合したり分割したりして利用する技術」だ。さまざまな資源を柔軟に組み合わせることで、資源を無駄なく使えるようになる。ITの世界では2000年代にサーバーの仮想化が著しく進み、「クラウド」と呼ばれる使いたいときに使いたい分だけサーバ資源を使うサービスが急成長した。
これからは計算機以外のさまざまな資源も仮想化の対象となる。何を対象に「資源の仮想化」を実現するサービスを考えれば、それが新しいビジネスの種になる。それを探す競争が目下急速に進んでいる。
[1] BigBellyウェブサイト、http://bigbelly.com/(2019年5月閲覧)
[2] ラクスル社ウェブサイト、https://corp.raksul.com/(2019年5月)
※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロンヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。
著者プロフィール(鈴木良介氏)
野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント。2004年、株式会社野村総合研究所入社。近年では、ビッグデータ・IoT・人工知能などのテクノロジが事業・社会にもたらす影響の検討および新規事業立ち上げ支援を行う。科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CRESTビッグデータ応用領域領域アドバイザー。著書に『データ活用仮説量産フレームワークDIVA』(日経BP、2015年)