第6回「雪国で燃料費を4割減らしたAI活用」

雪国で燃料費を4割減らしたAI活用

第6回:2019年9月25日更新

 

 

著:鈴木良介
(野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント)


「札幌は人口十万人以上の都市の中では、世界第2位の降雪量」。
このことを数年前に海外メディアが報じたランキングがちょっとした話題になった。
ちなみに1位は青森市、3位は富山市だ。
繰り返しになるが、これは世界ランキングであり、4位になるとやっとカナダのセントジョンズが登場する。
これらの大都市は雪と付き合いながら暮らしていく必要がある。

そんな札幌を擁する北海道で人工知能活用(AI)に取り組むのが北海道ガス(北ガス)技術開発研究所だ。
北ガスが北海道大学調和系工学研究室川村秀憲教授との共同研究によって目指すのは、融雪システムの高度化である。
AIの活用により生々しい地域の課題を解決し、経済的な効用にもめどをつけた事例を、同研究所の武田清賢工学博士に聞いた。*1

(図1:北海道ガス武田氏)

そもそも融雪システムは積雪地帯に特有の社会インフラだ。ボイラにて加熱された温水が地下に設置されたパイプを巡り、路面の雪が溶かされる。
建物入り口や駐車場や坂道など、積雪が邪魔または危険なため、常に雪を除去しておく必要がある場所に整備される。

温水を沸かすためにはガスなり灯油なりといった燃料が必要であるため、ボイラをずっと稼働させていればコストがかさむ。
管理者としてみれば、雪が積もっているときだけボイラを稼働させ、そうでないときには停止したい。

これは至極もっともな要望だ。
そのため、これまでも「融雪の必要性を検知するためのセンサ」は活用されてきた。
たとえば、現在雪が降っているかどうかを水分の付着によって検知するセンサや、外気温センサ、路面温度センサなどだ。
しかし、いずれも積雪状態を直接監視するものではない。
結果、ボイラの稼働も安全側に寄せるべく多めに稼働させてしまうため、無駄が生じていた。

実際に融かすべき積雪を確認してボイラを稼働させることができれば、エネルギー効率は劇的に高まる。
実際、積雪状態をカメラを用いて人間が遠隔から確認し、手動でボイラ制御を行うサービスを提供している事例においては、燃料費が平均42パーセント削減されていた。

このような背景のもと開発されたのが融雪AIだ。
これは、積雪を画像解析によって把握する。
対象区画に画像認識カメラを設置・路面の画像を撮影し、ソフトウェアによって積雪の有無を判断し、積雪があればボイラを稼働させる。

(図2:融雪AIの画像撮影ユニット)

ポイントはもちろん画像から積雪の有無を判断することだ。
積雪は画像の輝度や色味から判断することは困難。
そのため、あいまいな事象の判別に有効なディープラーニングを活用した。
合計2万4千枚の画像で学習を行い、積雪の有無を98%の精度で判断できるようになった。
このしくみに基づいて大口の融雪契約を結ぶ顧客5社に対して、本システムを試験的に導入したところ、支障が起きることもなく、ボイラ稼働時間は平均38%削減された。
この実証研究の結果を踏まえ、近い将来の商品化を目指している。

これは利用者としては嬉しいが、結果として燃料の販売量を下げることになってしまう。
ガス会社として問題はないかと心配になるが、北ガスは全社方針として「最小のエネルギーで快適な社会」を目指しており、AI融雪もその考えに準じた顧客・社会のためのサービスに位置づけているという。

今後の発展的な研究としては積雪有無の判定水準を調整することも検討している。
たとえば「絶対に溶け残りを許さない」や「多少溶け残っても光熱費が安い方が良い」といった施設管理者によって異なる方針の反映だ。
それぞれの施設における危険度や管理方針が異なる中でこのようなことまで実現されれば重用されると期待される。

雪が積もっていない路面をいくら温めても誰も得をせず環境負荷だけが高まる。
融雪AIはそのような無駄の解決のために、テクノロジを活用した象徴的な事例だ。
安くなったテクノロジを活かし、誰も喜ばぬ無駄を除く施策は、今後様々なところで実現されていくだろう。

*1 筆者によるインタビュー(2019年9月実施)

 

※コラム記事は執筆者の個人的見解であり、オムロンヘルスケア株式会社の公式見解を示すものではありません。


著者プロフィール(鈴木良介氏)

野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部、上級コンサルタント。2004年、株式会社野村総合研究所入社。近年では、ビッグデータ・IoT・人工知能などのテクノロジが事業・社会にもたらす影響の検討および新規事業立ち上げ支援を行う。科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CRESTビッグデータ応用領域領域アドバイザー。著書に『データ活用仮説量産フレームワークDIVA』(日経BP、2015年)